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年金の本当のおはなし
支給開始年齢引き上げに関する問題点(2)
さて、具体的な問題点ですが、大きくわけて、年金制度そのものの問題点と、社会全体としての問題点があります(マスコミでは目先の損得ばかり扱うので、本当の問題点がわかりにくくなっています)。

まず、年金制度そのものの問題点ですが、
1点目は、厚生年金の60歳から65歳への支給年齢引き上げについては、国民年金に合わせるという大義名分があったのですが、今回の65歳以上への引き上げについては、そのような基準となるべきものはありません。誤魔化しのように他国の制度を引き合いに出していますが、他国は他国です。他国が日本の年金制度を保障してくれるなどということはありえませんし、他国では年金以外の部分の整備等も日本とは違いますので、同様に語ることはできません。このような大義名分のない引き上げは、上限なく引き上げるきっかけとなります。68歳であろうが70歳であろうが、それは一時的なもので、もっと高齢まで引き上げることも可能となってしまいます。

2点目は、一番大きな問題点なのですが、不可逆な改変であることです。一度支給開始年齢を引き上げてしまうと、元へ戻すことはできません。今後、平均寿命の低下などにより過剰に引き上げ過ぎたことに気付いたとしても、その時には元には戻せなくなります。これは、仮に68歳支給開始としていた場合、65歳支給開始に引き下げると、その間に挟まって不利益となる方々が発生するためです。

平均寿命は永遠に伸び続けることはありえません。今後、低下してくる可能性もあります。
今回の資料では平均寿命(余命)が延びているかのように書かれていますが、現実には、平成22年簡易生命表で見ても、すでに低下が始まっています。仮に今後平均寿命が下がり続け75歳となったとき、支給開始年齢が70歳であれば、受給可能年数は5年しかないことになります。保険料と年金額の収支分岐点は厚生年金で約6年、国民年金で約9年です。つまり国民年金については全国民が損をすることになります。
そうなったときに、一度支給開始年齢を引き上げてしまっていると、もう一度65歳に引き戻すことはできなくなるのです。
このような硬直的な改変は国の制度としてはするべきではありません。


社会的な問題点につきましては、
支給開始年齢までの間、収入が途絶えることとなります(これはマスコミでもよく取り上げられた部分です)。
支給開始年齢が65歳である時に比べて、単純計算で、68歳支給開始なら約834万円、70歳支給開始なら約1390万円の年金額が受給できないこととなります。つまり、それだけ収入が減ることとなり、それに代わる収入の確保が必須となります。
現在、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、65歳までの定年の引き上げに関する規定がありますが、多くの企業は60歳定年のままで、再雇用を含む60歳以上の雇用が確保できている企業は半数もありません。これは、今回の資料の中でも「希望者全員が65歳まで働ける企業等の状況」として、31人以上雇用している規模の企業全体の46.2%としています。これは半数近い企業が60歳以降も勤務できるということではなく、30人未満の小零細企業を含めれば、もっと小さな数字となるものを誤魔化しています。また、勤務可能なのはあくまでも65歳までであって、68歳や70歳ではありません。
つまり、多くの方々が60歳から68歳、70歳までの間、収入のない期間が生じてしまいます。仮に老後の蓄えと思っていた貯蓄があったとしても、この間に使いきってしまう可能性があります。しかも、この事態を国は認識したうえで、今回の支給開始年齢引き上げについて検討しているのです。

老後にお金が掛らないということはありません。もし自宅介護をするのであれば、自宅をバリアフリーに改装しなければならない場合もあります。自宅を改装しなくても、老人ホーム等に入所しようとすれば、入居一時金等のまとまった費用が必要となります。しかし、年金の支給開始年齢を引き上げることによって、まとまった費用が必要となった時には、その費用は無くなっているという事態が起きるかもしれません。
現在そして今後の日本において、子供が100%親の面倒を見るということは殆ど期待できません。子供世代は子供世代でそのまた子供の教育費などに大きな出費を強いられています。そもそも年金制度は、そうなることを見越したうえで、子供に費用の負担をかけないようにするための制度であり、だからこそ世代間扶養の形をとっているものです。子供に費用の押しつけをするのであれば、年金制度そのものの否定と言えます。
このような老後の出費の為に蓄えたお金を国がすりつぶしてしまう事を検討しているのが今回の案なのです。

しかし、それでは高齢者の雇用期間を延ばせば良いのかというと、決してそうではありません。
労働の場の総量は同じ、むしろ昨今の不景気では減ってきているという中で高齢者を雇用しなければならないとなれば、そのしわ寄せは若年者へ向かいます。本来、雇用する側にとってみれば、高齢者より新卒の方が給与は安くてすみますし、あと、3〜5年しか働かないとわかっている人と、今後会社を維持継続していくために必要な人材であれば、若い方を雇いたいと思うのは当然の判断でしょう。今後の日本経済の発展を考えれば、高齢者の雇用ばかり奨励するのは決して望ましい事ではありません。
また、高齢となれば、体力以外にも様々な面で能力の低下が生じてきます。60歳を超えた全ての方が業務に耐えられるとは限りません。これは端的に言えば「死ぬまで働けということか?」という話になりますが、やはり長年お勤めされた事をねぎらい、ゆっくり老後を楽しんでいただく時間があってしかるべきなのではないかと思います。

一方で、現在、障害年金は65歳以降に初診日のある障害や、65歳までに初診日があってもそれから1年6か月後の時点(障害認定日)では障害年金の対象とならず、65歳以降に障害年金の対象となるほどの障害となった場合(事後重傷)については支給対象とはなりません。65歳を超えれば障害というよりも老化であり、また65歳を超えれば老齢年金があるため障害年金ではなく老齢年金を受給していただくという発想からです。
しかし、今回の案ではこの面に関する検討は全くされておらず、場合によっては障害年金も老齢年金も受け取れない方が発生することとなります。障害年金は、簡単に言えば障害によって働くことができない状態の方に支給されます。働くこともできない、年金もないという方々をどうするつもりなのでしょうか?

このように、社会的な整備は全くされておらず、また整備しようにも無理でしかない事を認識していながら、年金制度内、特に老齢年金に関する収支だけを考えて検討しようとしているのが今回の案なのです。
この案がどれほど無謀でメチャクチャな話なのか?をもっと国民は知っておくべきだと思います。

まだまだ根本的な問題点がありますので、それは次に書きます。

(2011.11.3)


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