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年金の本当のおはなし
支給開始年齢引き上げに関する問題点(3)
今回は、根本的な問題について述べたいと思います。

もし、本当に年金財政がひっ迫しているとしての話ですが、それを回避する方法としては、収入を確保する方法か、支出を抑える方法かになります。
収入の確保という意味では、保険料を上げるか、消費税の導入ということになるでしょう。
消費税の導入に関しては、ずいぶん以前から話が出てきていますが、今回の検討案では消費税導入に関する可能性については全く触れられていません。
支出を抑えるという意味では、今回の支給開始年齢引き上げ以外に年金額そのものの減額という事も可能です。

年金財政がひっ迫するという問題において対象となるのは団塊世代をどうクリアするか?です。それ以降の世代は団塊世代ほど人数が多くはないので、年金財政的にもそんなに問題とはなりません。
ところで、この支給開始年齢の引き上げをしても、団塊世代の問題は解消しません。もし、団塊世代に対応するのであれば、即応力のある年金額の減額で考えるべきです。また、この場合は年金原資に余裕ができれば増額することも簡単です。支給開始年齢の引き上げのような不可逆性はありません。
実は、すでに年金額の減額については法律に組み込まれています。にもかかわらず、実質的な減額は行われていません。なぜ、先に正しく年金額を減額することについて検討せず、いきなり支給開始年齢の引き上げを検討するのかは、追及すべき部分だと思います。

一方で、急に「団塊ジュニア世代への対応」という話が出てきているようです。今までは「団塊世代をどうクリアするのか?」という話で物価上昇とは関係なく保険料額を上げてきたわけですが、団塊世代を理由にできなくなると、今度は団塊ジュニア世代を理由にしようとしています。
このように次々と理由を増やしていくやり方というのは、どこかで聞いたような気がしますが、年金についても、このようなこじつけをして少しでも年金原資を減らさないで済む方法を考えているようです。

そして、そもそもの大前提として、本当にそこまで年金財政がひっ迫しているのか?という問題があります。
将来、本当に厚労省がいうほどの少子・高齢社会になるのかどうかは全くの不明です。厚労省が提示している2055年の人口ピラミッドは絶望的に見えます。多くの方はこれを見て、少子化がどんどん進むのは絶対的なことのように思っていらっしゃいますが、それが事実かどうかは本当はわからないのです。
人間も生物である以上、高齢者は確実に亡くなられます。そして、合計特殊出生率はここ5年間継続して増加してきています。実際に出生数も増えてきています。先日、出生動向基本調査なるものがいきなり出てきましたが、これは全く信用に足る資料としては扱えない代物です。全国民は、厚労省による「少子化は絶対である」という間違った刷り込みから脱却する必要があります。
おそらく、今から30年後位には、人口ピラミッドはペンシル型になっていると思います。70歳位までほぼ同じ人数が続き、それより上は逓減する形です。日本のように、高度に医療が発達した社会では、いわゆるピラミッド型の人口ピラミッドというのは不可能です。この形にしようと思えば、出生直後から全ての年齢の方々が子供も含めて一定数亡くならなければ成立しません。よほど衛生状態が悪いか、医療が行きとどいていない社会でなければ、このような形はなりません。「人口ピラミッド」という単語に惑わされないで下さい。
そして、ペンシル型の人口ピラミッドとなれば、労働人口数と年金受給者数を比べると、あきらかに労働人口数の方が多くなります。実は、厚労省が示しているような逆三角形のピラミッドにはならず、ほぼ1人の労働者が1人の高齢者を支えるなどという形にはならない可能性の方が高いのです。おそらく、3人で1人くらいの形で落ち着くのではないでしょうか。

また、積立金の取り崩しを絶対悪のように言っていますが、そもそも世代間扶養の賦課方式であれば積立金は必要ないものです。しかし、保険料が不足した場合の対策として積立金があるわけなので、この多額の費用が掛かる団塊世代をクリアするために積立金を取り崩すのはそもそも織り込み済みの話だったはずです。しかも、すぐに積立金全額が無くなるわけでもありません。
確かに、現在は100年安心と言っていた平成16年改革の予想より少し悪い状況にはなっているでしょう。しかし、それは正しく年金支給額を下げていなかったり、利回り率を高く設定していたりということによります。
しかし、現状のままで積立金が何年で無くなってしまうのかは、基本となる人口構成を再検討しないまま計算しても正しい結果は導かれるはずはありません。
これらの、年金財政状況の正しい検証が本当になされているのかどうかは不明です。厚労省の案は全て年金原資が不足することが前提の話であり、現状のままで回避できるかどうかの真摯な検証はされていません。
尚、経済学者の方々の中には賦課方式ではなく積立方式にすれば全て解決するような事を仰る方がいらっしゃいますが、とんでもない大ウソです。少なくとも、現時点において、これだけ積立金の取り崩しを嫌がるような厚労省です。制度そのものを積立金方式にすれば、どのような事態になるか、容易に想像がつきます。
それはともかくとして、積立金方式にすると、利回りが良い間は良いですが、そうではない時には年金原資が不足する可能性が高くなります。冷静に考えてみて下さい。仮に、月々15,000円の保険料×40年で月々6万円の年金を受け取ろうと思えば、半分税金が投入されていたとしても、20年以上は支払いができない事になります。単純な計算でわかることです。
年金額が少ないと言われ続けていますが、保険料と比べれば、あり得ないほど年金額は高額です。なぜ、その状態が維持できているのか?ということを冷静に考えてみていただきたいです。

そして何より一番大きな問題は、この話が出た事によって、また年金に対する信用が全くなくなってしまったことです。こんな事をしてしまえば、若い方々が「年金は貰えないもの」と思われても不思議はありません。そうなれば、ますます保険料の納付をしない方が増えて、年金制度は内部から崩壊します。
今、年金行政として一番しなければならないことは、年金に対する信用回復のはずです。年金は必ず受け取れるもの、平均寿命まで生きれば、むしろお得な制度、ということを御理解いただくことが年金制度の信用回復のためには一番必要な事なのに、真逆の事をしています。
そして、それに便乗して正しい検証もせず不安を煽るだけの報道を臆面もなくするマスコミがいます。マスコミの皆様には、自分達の報道姿勢が年金制度をより悪くしているのだという自覚を持っていただきたいです。また、仮にも社会保険労務士であれば、このような社会悪には加担しないでいただきたいです。
そして、なぜここまで金集めに必死なのか?が疑問として残ります。
あくまでも憶測ですが、消費税導入となれば、収入に関する部分が厚労省の手を離れます。そうなれば、厚労省が好きに使えるお金が減ってしまうわけで、そうなる前に掻き集められるだけ掻き集めようとしているのではないか?とも思えます。省庁間のお金の綱引きに国民が犠牲になる形です。
もしそうなら、絶対に許してはいけない事だと思います。

尚、他に保険料の上限を上げるという話も出ています。これは集める保険料は増額しますが、年金の受給額には大きな差はない可能性が高いです。
これも、問題のある改変です。これについては別項を設けます。

長々と書きましたが、これほど問題の大きい改変であるということを全国民が認識し、それでもこの案を是とするのかどうかを皆様でお考えいただくきっかけとなれれば嬉しく思います。

(2011.11.3)
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