「社会保障を通じた世代別の受益と負担」は
こちらをご覧ください
笑ってしまうくらい次々と怪しげな資料が出てきますので、本来書きたい話が書けないでおりますが…(苦笑)。
そもそも、この資料は何を目的につくられたものなのでしょうか。今の時期に世代間格差を喧伝するような事をするというのは、年金制度を潰したいということなのでしょうか?この資料の作成依頼元は内閣府ですから「内閣としては年金制度をやめたい」というメッセージなのかもしれません。しかし、それならそれで、今まで掛けてきた保険料への保障をどうするのか?や、年金のない老後の生活保障をどうするのか?を考えなければならないのですが、そのような検証は全くないようで、とにかく現行制度に対する攻撃だけをしたいようです。もしかすると現行制度を民主党案へ移行させるための手段なのかもしれません。
なぜこういう話をするかというと、この内容が全く根拠のない憶測に基づくデータでしかないからです(この資料を作られた方は、今後は残念な評価が付いて回る事になるかもしれません)。このデータだけを鵜呑みにして年金制度を判断されるのは非常に危険です。
もし、このデータを基に若い世代の方々が「トシヨリは楽をしている」とか「トシヨリの犠牲になっている」とか考えられるようになるとすれば、それは若い世代の方々にとって本当に不幸な事となります。
若い方々は、当然に御自身が物心付かれてからの出来事でしか判断ができません。これは今の若い方々だけでなく昔の若い方々も、いつの時代でも一般的にはそういう判断しかできないものです。しかし、それに対して過去にあった事を正しく伝えることによって、より正しく公平な判断をしていただくようにするのが教育です。ところが、そういった正しい情報は伝えないまま、現状の損得だけの話をしたら、今の若い方々は絶望しか感じられなくなるでしょう。その結果、国力の低下となる可能性はとても大きくあります。このデータを作成させた内閣府、作成された方、発表された方、報道された方は、そういった事は検討されたのでしょうか?
年金制度は、過去に遡るほど受給されている方一人当たりの額は高くなります。今後年金を受給される方は今受給されている方より年金額が少なくなるということですが、今年金を受給されている方々は過去に受給されていた方に比べて年金額が少ないという不満を持っていらっしゃいます。実は、ずっとその繰り返しなのです。
なぜそうなるか?というと、簡単に言えば昔に遡るほど受給される方が少なかったからです。なぜ少ないかというと、一つは戦争によって人口が減っていたため、もう一つは受給対象となりうる加入者が少なかったためです。受給対象となりうる加入者が少ないというのは、制度がまだ成熟していなかったために、保険料を支払う人はいても受給できる条件が揃っている人がいない、ということです。高齢者がいないということではありません。
冷静に考えれば、将来のために残しておかなければならないと考えるべきなのでしょうが、当時は今のように少子社会になるとは考えられていませんでしたし、景気がこんなに冷え込んだまま回復されない状況が続くとは考えられていなかったのです。これ自体は責められる事ではありません。今から振り返るからこそできる判断です。実は、このような収入過多な状況はかなり長期間続いていました。今ある年金積立金はこの頃にできたものです。そして、様々な箱モノ(厚生年金会館・グリーンピア等)が作られたのもこの時期です。この時代はそういう社会的要求があって、これらは国会で決定されて作られたものです(ついでに言えば、以前は「安くで泊まれる公共の宿」的特集はどのマスコミもよく取り上げていて、年金関連施設も良いものとして紹介されていました(苦笑))。
昔は、それより前の時代が物質的に満たされていなかった事がわかっていましたし、先人のおかげで日本国があるという意識もしっかりありましたので、自分より前の方の年金額が高い事に不満を言う人は少なかったのですが、今はそういう教育が全くされなくなりましたので(というよりタブー視されていますね)「自分達の額が少ない」という不満だけがクローズアップされることとなりました。実に不幸な事です。
さて、話を元に戻しまして、この資料はこういった過去の事情などは全く盛り込まれていません。過去の受給が多かった理由などは全く無視されていますし、これからの受給額が少なくなる根拠は憶測です。
何度も書いていますが、年金というものは、目先の数字だけをこねくり回して回答が出るようなものではありません。こういう社会性の低い数字を殊更に取り上げるのはどのようなものか…と思います。
(2012.2.7)
この記事に関連する記事があります。
<「年金の常識」の間違い>世代間格差は本当か?