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年金の本当のおはなし
民主党の年金試算について(2)
 国民は、年金制度の「本来あるべき姿」を理解した上で、この民主党案の年金制度に根本的な考え方としておかしなところはないのか?もっと良い方法はないのか?を考えるべきなのではないかと思っています。
 その点について、私個人は、前回にも述べましたとおり、この民主党案の基本的な所は、大きく外してはいないと思っています。

 まず、最低保障年金部分を消費税で賄うとしたところ。これによって、その時その時の状況に合わせて、柔軟な対応を取る事が可能となります。これは年金制度を維持し、国民が老後や障害を負った時の経済的不安を少しでも軽減させるためには、重要な問題と言えます。
 現行制度では、国民年金のみに加入されていた方の年金額は月額で約63,000円とされていますが、これはあくまでも40年間1カ月も欠ける事なく保険料を納め続けた場合の額です。しかし、現在、この額を実際に受け取っていらっしゃる方は非常に少数です。これは、昔の国民年金の制度に大きな欠陥があったためです。
 昔、国民年金制度を作った当時は、その問題点を認識できる人が誰もいないような社会状況でした。しかし、制度を作ってから20年経った時点で、社会状況も変わり問題点も明確化してきたので修正をしました。それが昭和61年の大改革で、この時に「基礎年金」という考えを持ち込んで、老後の年金がない方を無くそうとしました。しかし、この改革でも、保険料方式を取る限りは、まだ十分ではなく、本当に少額の年金しか受け取れない方が沢山いらっしゃいます。
 その問題点を修正するには、消費税の導入はやむを得ない事となります。
 もちろん、その分、消費税の負担額は大きくなります。私個人は、今、民主党が言っているような16.2%では済まない可能性も少なくないと思っています。しかし、実際に何%にすれば収支のバランスが取れるのか、そしてそれが高いのか安いのかは、その時に考えるべきことであって、現時点であれこれ憶測をしたところで意味はありません。今から50年も先の消費税が何%上がるか?などという事を「今」議論するのは全く無意味ですし、馬鹿げた話と言えます。
 なぜなら、50年も先の経済状況など、誰にもわかるハズがないからです。例えば、2005年当時に、2009年のリーマンショックとその後の経済の冷え込みを言い当てた人はいるでしょうか?わずか5年にもならない期間の事ですら、全くわからないのに、50年も先の事など、タイムマシンでもない限りは絶対にわからないのです。こんな不確定な数字を基にした議論など、何の意味もありません。一般国民としては、こんなバカげた話に乗って、一喜一憂して「損だ」「得だ」と騒がないように注意する必要があります。
 もう一つ、その頃の人口構造も、経済状況と同じく、現時点では誰にもわからないことなのです。厚生労働省や内閣府は勝手な数字を算出していますが、それが絶対に正しいという証拠はどこにもありませんし、だれにも保証できるものではありません。一つはっきりしている事は、大変申し訳ありませんが、団塊の世代の方々が50年後も生きていらっしゃる可能性は限りなくゼロに近いということです。もし、生きていらっしゃったとしても、数百人レベルの人数ではないかと思われます。今、年金財源が足りないといって大騒ぎになっている本当の理由は、この団塊の世代の方々をどう支えるか?という問題なのですが、この方々もいずれは人数が減っていくことは確実な事なのです。一方で、出産に関しては、今後減り続けるというデータは今のところありません。合計特殊出生率は、ここ数年上がり続けています。今年に関しては横ばいですが、少なくとも低下はしていません。母親世代の数が減っているために出生数は減っていますが、劇的に減少しているわけではありません。いずれにしろ、出生数がゼロになることはあり得ません。ということを総合的に考えれば、厚生労働省が絶対的現実であるかのように言っている超少子高齢社会が実現するかどうかは非常に疑問が残るところです。
 繰り返しますが、今後、少子高齢社会は緩和される可能性は低くはありません。つまり、今考えられているほど、将来の収支バランスは悪くない可能性も少なからずあるのです。しかし、それはその時になってみなければわからないことで、今からあれこれ想像したところで、解決する問題ではありません。もちろん、子供の数を少しでも増やすような努力(政策等)はする必要がありますが、それとは別に、今の時点で将来の状況を決めつけて論じるのはおかしな事なのです。

 このように、根本的な部分での不確定要素が大きな年金制度に、今から完全なものを作ってしまうということは無理が大きすぎます。ある程度フレキシブルに状況の変化に対応可能な形にしておかないと、また制度疲労が生じて、数年以内に修正なり変更なりをしなければならなくなります。それは、制度をよく御存じのない国民の皆様から見れば、また「嘘をつかれた」という感覚となり、不信感が生じる原因となります。その結果、ますます年金制度の維持が難しくなってしまう事となるでしょう。
 しかし財源を消費税にしておけば、保険料で賄うよりもは、状況によって修正しやすくなります。そういう意味でも、消費税を導入したことは高く評価できると思います。もし、これ以上に状況の変動に対応可能な方法があるのなら、どうしても消費税を利用するべきとは言いませんが、残念乍ら、私には今のところ他の方法は思いつきません。
 また、すでに決まっているように、現行制度では25年必要な加入期間を10年でも年金を受け取れるようにするのであれば、財源確保のためにも消費税の導入はやむを得ないでしょう。これは、消費税であれば、年金受給者にも支払い義務があることとなり、それによって15年分の期間短縮を担保することができるためです。


 また、全ての人に同じ制度の網をかぶせるということも重要です。現行制度では、どのような職業であるかによって、保障内容が違うという不公平が生じています。
 まず、今では最初の就職先に定年まで勤める人の割合は非常に低くなってきました。そうなれば、どのような方であれ、厚生年金や共済年金の加入だけでなく、国民年金の期間も必ず存在するのがアタリマエということになります。
 国民年金の制度ができた当時は、国民年金加入者の想定は自営業者でした。自分で店や農地、漁船等を持って収入を得ているのなら、サラリーマンと違って高齢となってもある程度の収入が見込めるだろう、という想定のもと、国民年金が設定されました。そのため、国民年金の年金額は厚生年金に比べ非常に低くなっています。しかし、今はそんな時代ではありません。自営業者であっても、老後までその仕事を続けられるわけでも収入が確保されているわけでもありません。それは、今のシャッター通りの商店街を見れば容易に想像できることでしょう。また、農家や漁師の方々も、家業を継ぐ方がいらっしゃらなければ、体力が落ちた老後に収入が確保できるとはとても思えません。自営業であったとしても、老後の収入はある程度の額の確保が必要となります。
 まして、制度設計当時の設定にない失業中の方の加入が一般化するとなれば、全く制度の意味が変わってしまいます。失業中であれば当然に収入はなく、保険料の支払いは滞りがちになるでしょう。そういう状況を想定して、失業中の方については申請をすれば保険料は全額免除される事となっています。しかし、その分、将来の年金額は少なくなります。
 つまり、保険料で制度を維持する以上は、どうしても現役時代の保険料納付の如何によって、老後の生活クオリティが変わってくることとなります。しかし、消費税で賄う最低保障年金というのは現役時代の状況に関わりなく最低限の老後の生活が保障されるということになりますので、国の制度としては妥当だということになります。

 その一方で、どのような仕事をしているかによって、老後の保障額が違うというのは公平とは言い難いものがあります。掛けていた保険料が安いために年金額が安いという事は妥当ですが、制度が分断されているために高い保険料を掛けたくても掛けられず、結果薄い保障しか得られないというのは公平とは言えません。
 現行制度では、どこへも勤務していない自営業・学生・主婦の方と、民間企業に勤務している方と、国家公務員、地方公務員、学校関係者で加入する制度がそれぞれ違います。制度が違う以上は、受けるサービスも変わってくるのは当然の事です。何かと公務員の年金制度である共済年金を叩きたがる方々がいらっしゃいますが、本当の事を言えば、それはあまり適切な話ではありません。基礎年金が導入された後、各共済制度も厚生年金に近い制度になったとはいえ、それでも制度が違う以上は内容が違うのはアタリマエなのです。ところが、年金制度にあまり詳しくないマスコミの方々が第2号被保険者は全部同じでなければならないと誤解されたために、おかしな認識が一般化してしまいました。
 ただ、このような勤務先によって制度が違うというのは、国が運営する制度として正しくないのは、それはそれで当然の事で、やはり、どのような職業であれ、同じ制度の元、同じ保障を受けられるという形が、本来あるべき姿です。実は、昭和61年の基礎年金の導入は、それまでバラバラだった年金制度を一つにする(一元化)第一歩だったのです。ところが、その後、一元化の話は具体的に進む事なく、20年以上が経過してしまいました。それが、今やっと進み始めた(かもしれない)ところだといえます。
 なぜ、そんな長期間話が進まなかったのか?と言えば、各制度間で様々な面での大きな隔たりがあったためです。沢山あった年金制度の中でも、比較的状況が厚生年金に近く統合しやすいものは、すでに厚生年金に統合されているのですが、国家公務員共済、地方公務員共済、私学学校共済は、加入者数も多く、制度の財政面の問題からも、なかなか厚生年金に統合することができなかったのです。
 この問題は、それまでの年金制度の大枠をそのまま残すのであれば、一元化を先に進める事ができなくなる大きな問題点です。しかし、今回の民主党案のように、今までの年金制度とは全く関係のない形で新しい年金制度を作るのであれば、一元化も可能となります。そのように、今までと全く違う形の新しい年金制度を考えたという点でも、大きく評価できるものと言えます。

 しかし、残念ながら、問題点も多く残されています。これについては次回にお話いたします。


(2012.9.15)




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