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年金の本当のおはなし
<「年金の常識」の間違い>第三号被保険者の問題点など
<「年金の常識」の間違い>シリーズは、思いついたものから書いておりますので、順番が前後したり話が重複したりすることがあります。申し訳ありませんが、御了承下さい。

社会保障税一体改革に関連して第三号被保険者の扱いの問題が浮上しているようです。しかし、そもそもこの第三号被保険者とはどういうものなのか?すらわからないままお話されているケースがあるようですので、まずは第三号被保険者がどういうものなのか?からお話したいと思います。

第三号被保険者が、厚生年金や共済組合に加入している、つまりどこかにお勤めされている方の被扶養配偶者であるということは、今では多くの方がご存じである事かと思います。これはあくまでも「扶養されている配偶者」であって男女の別はありません。現実に、男性でも第三号被保険者になっていらっしゃる方はいらっしゃいます(男性の第三号被保険者は増加傾向にあります)。ですので、男女差別の視点で話をすべき事ではないということは御理解下さい。ただ、女性の第三号被保険者の方が多いことは間違いありません。

では、そもそも、なぜ第三号被保険者が存在するのか?からお話いたします。
昭和61年の改革の時に、国民年金と厚生年金が一元化され、国民年金は基礎年金として全ての人が加入しなければならないこととなりました。実は、これまでは全ての人に国民年金の加入義務があったわけではなかったのです。厚生年金等に加入している人(どこかにお勤めしている人)に加入義務がないのはもちろんですが、厚生年金等に加入している人に扶養されている配偶者(多くの場合は主婦)にも国民年金の加入義務はなく、希望者は任意で加入してもよいという程度だったのです。このため、わざわざ任意加入しない方が多数いらっしゃり、結果的にこの方々には老後の年金がないという事態が生じてしまいました。昔は、社会全体の考え方として、扶養配偶者である主婦に収入が必要であるとは考えていなかったわけなのですが、だんだん年金を受け取る人が増えてきて、主婦の皆様に年金がないのは良くないとなったため、現役時代に収入がなくても年金を支給しなければならないとなって、全ての人が強制加入となりました。昭和61年の改革は、単純に国民年金の維持のためだけではなく、全ての国民の老後の安定を考えた側面もあった事は理解すべきでしょう。
しかし、それまで任意加入としていたために、任意加入されていない方は当然に保険料を納めていませんでしたし、当時は主婦といえば専業主婦が殆どでパート労働をされている方も少なく収入がない方が多くいらっしゃいましたので、急に保険料を納める義務を求めるのも難しいだろう、ということになりました。そのため、被扶養配偶者本人には保険料の支払いを求めない「第三号被保険者」というものを作り出しました。
この時の問題点として、それまで任意加入されていた方については、第三号被保険者では国民年金の独自給付である付加年金を掛ける事ができなくなったり国民年金基金に加入できなくなったりしましたので、不利益となった方もいらっしゃいます。

このような事情でしたので、第三号被保険者は恒久的な制度ではなく、一定期間のうちに存在そのものを見直す予定のものでした。本来であれば、昭和61年の改革の時には、国民年金のみに加入している方かそれ以外の加入もある方かの2種類であるべきであったということを御理解いただきたいと思います。
しかし、一度保険料を支払わなくても年金が受け取れるという既成事実を作ってしまいましたので、それが正しいかどうかに関わりなく「権利」となってしまい、簡単には廃止することができなくなってしまいました。第三号被保険者の廃止は、少なくない人数の方々(第三号被保険者本人だけでなく、その方を扶養している第二号被保険者の方々も)の不利益となってしまうので、この問題からは民主党だけでなく自民党も公明党もその他の政党も、皆逃げ続けています。
この第三号被保険者の数は、平成22年度末(2011年3月31日)現在で1005万人となっています(「平成22年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」参照)。御参考までに、この第三号被保険者の人数は国民年金の保険料未納者数より多い人数となっています(「平成22年度における国民年金保険r等の納付状況と今後の取組等について」参照)。

この第三号被保険者の方々は御自分で保険料を支払わないにもかかわらず年金を受け取る事ができるということですので、どこかにその財源を求めなければなりません。これは、その第三号被保険者を扶養されている厚生年金や共済に加入している方個人が支払っているのではありません。広く薄く第二号被保険者である全ての方の保険料に上乗せされています。このため、第三号被保険者の方が御自分で保険料を支払うようになっても、その方を扶養している方の保険料の額は変わりません。
つまり、配偶者の居ない独身の方も第三号被保険者の方の保険料を支払っていることになっています。ここに働く女性と専業主婦との対立構造という非常に残念な事態が生じています。昔、第三号被保険者が導入された当時は、女性はいずれ結婚して主婦となり、家事・育児に専念するのがモデルケースでしたので、独身者であってもいずれは被扶養配偶者である妻になったり配偶者を扶養する夫となるので、結婚するまでの間、他の人の保険料を負担したとしても一時的な事であり大きな問題ではない、と考えられていたのですが、現在では、結婚しない方や結婚しても勤務を続けられ被扶養配偶者とはならない方も増えてきましたので、制度としてのバランスが狂ってしまっているのです。

一方で、世帯の中で主たる収入を得ているはずの第二号被保険者による収入だけでは家計を賄いきれなくなって、専業主婦として収入がないはずだった方々もパートとして働くようになり、本来、収入がないからこそ保険料を求めないはずだった方々に収入が発生することとなりました。それでも、年収が130万円までの方であれば、被扶養配偶者として第三号被保険者であっても良いとされてきました。これは、収入から保険料を天引きされないですむ第三号被保険者の方だけでなく、そういう方々を雇う企業にとっても会社負担分の保険料を支払う義務がありませんので、安い労働力として重宝されています。
しかし一方で、働きたい方の労働意欲を抑え込む結果ともなっていますので、その面での問題も指摘されています。

ここまでが基礎知識です。
本来、第三号被保険者は永続するものではなかったことは御理解いただけるのではないかと思います。そもそも年金制度は、個人的な損得で考えるべきものではありません。誰かが得をすれば誰かが損をします。それを不公平といいます。得していた人は本来の形に戻れば損だと思うかもしれませんが、それは元々が間違えているのです。


さて、今回の社会保障税一体改革で出ている厚生年金保険加入者の拡大ですが、今のところ、1週間の労働時間が20時間以上の方は加入していただくことにしよう、という事になっています。この「週20時間」という規定は、雇用保険に加入しなければならない方々の基準で、とりあえずはこれに合わせた形になっています。この案の中には年収の縛りはありませんので、年収が130万円までであっても週20時間以上働くのであれば強制加入となります。

これについて、「保険料を支払わなければならなくなるのはおかしい」とか、「国の都合を押しつけられている」とかという考え方はあまり正しくはありません。たしかに、お子さんを預けてパートに出た場合、パートのお給料の額では保険料を差し引かれると何のために働いているのかわからなくなる、という事態になる可能性はあります。個人のレベルで考えれば「損」と思われるでしょう。しかし、その分を誰かが負担しているのだ、ということは忘れてはならないと思います。
もちろん、産前産後や育児期間中の保険料は免除されるべきだと思います。これは、厚生年金に加入している方も免除または免除の方向(産前産後休業期間)です。しかし、長期間の保険料免除は年金制度全体の負担となり、回り回って自分に返ってくるのだという認識は必要だろうと思います。

一方で、社会保険料を掛けなくても良いパート労働者を安価な労働力として利用してきた企業側にも、この改革は大きな負担となるため反対意見が根強くあります。政治家としては、この反対意見も無視できないところだろうとは思います。
これは、保険料の半額を雇用主が負担しなければならないこととなっているためなのですが、これについては今後、大きな山を越えなければならなくなる可能性が高いです。これについては、別項で述べたいと思います。


いずれにしましても、もし民主党案の年金制度を導入するのであれば、第三号被保険者は消滅することとなるでしょう。民主党案で言えば、保険料納付に関しては所得の少ない方は少ないなりの保険料を納め所得のない方は保険料を納めず、年金の受給に関しては年金額が少ない場合は最低補償年金を受給することとなるからです。
また現実には、女性の第三号被保険者は減少傾向にあります。もちろん、自然減であればゼロになることはありえませんが、主婦であっても自分で収入を得るのが一般的となれば、不要な制度となる可能性もあるでしょう。
現状は、過渡期の問題として損得が発生してしまっているのだと言えます。目先の個人的な損得ではなく、全体的な流れの中で自分はどうするべきなのか?を考える事こそが重要なのだと思います。


ところで、先日、私のコメントとして第三号被保険者に関する話を掲載された週刊誌がありましたが、あの内容は私の意図するところとは全く違う意味合いで掲載されています。私の第三号被保険者に関する認識は上記のとおりです。


(2012.2.25)




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