「社会保障・税一体改革素案骨子(社会保障部分)」の原文は
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(3)高所得者の年金給付の見直し
この骨子の記載だけでは、年金額が高い方なのか、年金以外の収入が高い方なのか、資産の多い方なのか、わかりませんが…。
以前の「社会保障審議会年金部会の中間報告」にあった記載(8.在職老齢年金の見直し)を基にお話をするなら、現在、年金受給開始年齢となっても勤務を続けられ、年金以外に給与がある方については、その給与額によって「在職老齢年金」という形で年金額の一部から全部をカットするという制度があります。
しかしこの制度に対しては、「働いたために年金額が減るのはおかしい」という根強い意見がある一方で、厚生年金の対象となる給与額だけを対象とするのではなく、総収入や資産等も対象として年金額をカットするべきという意見もあります。これらを踏まえて、適切な制度に変更すべき、というお話となるのですが…。
骨子には「☆ 最低保障機能の強化と併せて実施」と書かれていますので、年金額の低い人には加算する一方で、その財源として年金額の高い人からは年金額をカットするという話であれば、重大な問題となります。
「年金」という名前なので勘違いされている方も多いのですが、年金は本来「保険」です。国民年金に関しては保険ではない給付がありますので「保険」という名前は付いていませんが、厚生年金は「厚生年金保険」という名前のれっきとした保険なのです。「保険」という意味では、民間の私的年金と同じものなのです。
であれば、支払われた保険料に見合った年金給付額は当然にあってしかるべきです。現行の制度であっても、給与の高い方と低い方の保険料の差ほどの年金額の差とはなっていません。しかも、将来的に想定している民主党の新しい年金制度では、所得の多い方ほど保険料が高く年金も高額となる制度としたいという話になっています。であれば、年金額が高いからという理由でカットするのはあり得ない事でしょう。
この内容については、もう少し詳しく説明していただきたいと思います。
(4)物価スライド特例分の解消
これはすでに議案ともなっており、むしろ早急に対処、解決すべきことだと思います。
この特例により高額となっている年金額を減額することについて、過剰に年金額が下がると危機感を煽っている記事も見かけますが、本来下げるべき額を下げていなかったのですから、むしろ今までが高額過ぎたのだ、ということをキチンと説明する使命がマスコミにはあるのではないかと思います。
もちろん、このような事となった原因は小泉内閣の保身にあるのですから、その方々の反省となんらかの責任追及はあってしかるべきと思いますが、それを抜きにして、現状維持こそ最上と言わんばかりの記事は如何なものかと思います。将来へ向けての年金制度の維持のために必要であると決めた事を、キチンと対応しないことこそ、大きな問題だと思います。そのために制度維持ができないなら、その責任は誰が取るべきなのでしょうか?
元々、年金は物価変動に連動して変額することとなっています。過去、物価は上がり続けていましたので減額されたことはありませんでしたが、物価に合わせて変動するという基本には変わりありません。これに関して、基準となっている物価指数には、生活に密着している食費等だけではない、あらゆる金額から算出されているのだから生活費である年金額に連動させるのはおかしいと仰る方もいらっしゃるようですが、増額する時はこの基準で増額していて、減額する時だけは減額幅の少ない基準を使用しようという発想は如何なものかと思います。
(5)産休期間中の保険料負担免除
現在、育児休業中の厚生年金の保険料は会社も本人も支払わなくて良いこととなっていますが、産前産後休暇中の保険料については、支払わなければならないことになっています。労働基準法では産前産後休暇を義務付けているにも関わらず、育休中は支払わなくてもよい保険料が産休中は支払わなければならない事の方が不思議なくらいではないかと思います。
これについては早急に対応していただきたいと思います。
一方で、国民年金のみに加入されている方も産休中の状況としては同じなのですから、こちらへの対応も考えていただきたいです。
将来、全ての年金制度を一元化し、職域に関わりなく同じ年金制度に加入することにするのであれば、現時点でも一致可能な部分はできるかぎり同じ対応をするべきではないかと思います。
(6)短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大
これも随分以前からずっと議論されている事です。
経済界からの反発は今でも根強いものがあると思います。実際、パート労働者を多く使用している企業は社会保険料を支払う義務がないからパート労働に頼っている、という事があるかと思いますし、だからこそ経営していけるのだという事もあると思います。社会保険料はその半額を企業も負担しなければならず、これが大きな経営負担となっているのも事実だと思います。
しかし一方で、年収130万円までは扶養配偶者とするという制度に合わせるために労働を制限されるパート労働者が多いのも事実であり、制度の歪みとなっています。また、扶養関係に関わりなく、短時間労働であるために社会保険に加入できず、そのために将来の年金額が低額となったり、国民年金の保険料を支払わなかったために加入期間が足りず受給できないという方が発生するような事態となっているのも問題点です。
将来的に、民主党案の年金制度のような完全に所得によって保険料を設定し、それを基に年金額を決定するようにするのであれば、この短時間労働者の問題は必ずクリアしなければならない事でしょう。つまり、被扶養配偶者かどうかに関わりなく短時間労働の方にも社会保険加入義務を課すこととなるのは、遠いか近いかだけの問題で、いずれはそうせざるを得なくなる可能性が高いです。当面は、雇用保険と同様、週の労働時間が20時間以上の方から加入義務が課されることとなるでしょう。
これは企業側も短時間労働の労働者側も、真剣に考えなければならない事です。目先の損得だけではなく、社会全体はもちろん御自身の人生全体も見渡した判断をする必要があります。この場合には、感情論優先のネガティブな情報は極力排除し、正しい情報を正しく受け取る事を心がける必要があります。十分な御注意をなさって下さい。
尚、現在は被扶養配偶者となっている方に厚生年金の加入義務を広げる場合、単純に厚生年金に加入するかどうかだけの問題では済まなくなります。これは、現在の年金制度では第3号被保険者であることが前提の優遇措置が沢山あるためです。ただし、これについては、逆に厚生年金に加入して働いている方々からは不公平な事として問題視されています。
過去の経緯から残されている第3号被保険者ですが、いずれどこかで整理しなければならなくなるのは必然でしょう。元々これは一時的な措置だったのですから。その第1歩として、短時間労働者への適用拡大を捉えているフシがあるようにも思っています。
いずれにしろ、全ての方に良い制度というのは存在しません。どこに線引きをするかは、その時の社会全体の要求から考えるべきことでしょう。第3号被保険者ができて25年以上経っています。しかもそれ以前の制度を引きずった形で存在している制度です。今の時代に合わなくなっていてもおかしくはありません。一度、全体を考え直す必要はあるでしょう。
まだ続きます。
(2011.12.29)
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