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年金の本当のおはなし
「受給資格期間の短縮について」について
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2012年2月6日に「受給資格期間の短縮について」「産休期間中の保険料免除について」「制度運営上の改善事項について」という3つの資料が提示されました。マスコミは50年先の中身が全く不明な年金改革の幻影を追いかけるのに必死なようですが、今保険料を支払っている皆様については、こちらの方が重要です。
このうち、まずは「受給資格期間の短縮について」からお話させていただきます。

今の年金制度では、25年以上保険料を納付していなければ、年金は1円も受け取れないということになっています。時々勘違いされている方がいらっしゃるのですが、厚生年金は1年以上の保険料納付で支給されますが、その前提は厚生年金と国民年金を合わせて25年以上の保険料納付期間があることです。もし国民年金の保険料納付期間がなく厚生年金だけで1年しか加入してなかった場合は、老齢厚生年金は受け取れません。もっといえば、24年間厚生年金に加入していても老齢厚生年金は受給できないこととなります(この場合は、国民年金の任意加入によって受給できるようにするのが一般的ですが…)。
この「25年」の縛りが長すぎるのではないか?という意見が以前より根強く言われていることは、多くの皆様がご存じのことかと思います。これを10年に縮めようという改革案です。

この場合、まず問題となるのが、今まで25年の保険料納付期間がなかったために年金が受給できなかった方のうち、10年以上は納付されていた方々の扱いです。今回の改正案では、この方々についても改正法施行時から納付済み期間に見合った年金額を支払うとしています。
この扱いは、一見良い事のように見えますし、この対応をしなかった場合の不満を考えるとせざるをえないと思いますが、当然のことながら費用が掛る話です。この改正に必要な予算というのは、比較的簡単に算出できると思うのですが、それに関する記載がありません。野党も遠い将来のどうなるかわからない事の予算を問い詰めるよりもは、目の前のこの件に掛かる予算をこそ追及すべきなのではないでしょうか?

この資料では他国の状況についての記載もありますが、10年に短縮するのに都合の良い国だけをピックアップしていて情報操作を感じます(苦笑)。しかも、他国で保険料納付期間の縛りがない場合は、税金からの支出となっているという説明が抜けています。10年に短縮するのは良いのですが、そのための財源を保険料ではなく税金から支出するという覚悟はあるのでしょうか。現在のように国庫からの支出を1/2とすることすら暫定的であり、しかも国債に頼るような事を恒常的にするつもりであるのなら、このような短縮は行うべきではないでしょう。

この資料には、他にも問題点が記載されています。しかし、この問題点について一般の方でご理解いただける方は、残念ながら少ないのではないかと思います。これは、現行の年金制度の中でもあまり表に出ない部分に関する問題点だからです。しかし、確かに重要な問題です。

まず、遺族基礎年金・障害基礎年金は現行制度では保険料納付期間について2つのパターンがあるのですが、その一つは老齢基礎年金のように25年以上の保険料納付期間がなくても、年金制度加入中で過去の加入期間に2/3以上の未納期間がなければ保険料納付月数に限らず満額が支給されるもの、もう一つは25年以上保険料を納付していれば満額が支給されるものです(もちろん、他の条件が揃っていることが前提です)。
これが、老齢基礎年金が10年の納付期間だけで受給可能となった場合バランスがとれなくなる、ということです。また、2/3という期間についても、40年の2/3が約26年と25年に近い設定となっていると言う事もあるようです。これらの年金においても10年の保険料納付期間だけで受給可能とするのかどうかの調整が必要となり、当然にそれに関する財源が必要となります。

他にも、年金受給ができない状況の方に対し、25年を区切りとして対応してきたという過去の制度運営との調整が必要となります。
このうちの一つが外国人の方々です。国民年金は国籍に関わりなく日本国内に住所がある場合は加入義務があり保険料納付義務があります。そして、日本人と同様に65歳以降には年金として受け取れるのですが、この場合も25年以上の保険料納付済期間が必要となります。外国人の方の場合は、日本へ来られる前の期間については所謂「カラ期間」として月数だけカウントされるのですが、それでも帰国されるまでの間に25年に足りず年金が受給できない方が生じます。この場合においては現行制度では「外国人脱退一時金」として支給しています。ただ、これは非常に低い金額で、掛けた保険料にも全く見合わない方も少なくありません。これらの方々についても10年であれば年金として受け取れる方が生じますし、この場合は年齢的に正式に年金が受け取れるにも関わらず一時金で処理された方も相当数いらっしゃる可能性があります。
もう一つは「任意脱退制度」というものが過去にあり、現在はその対象となっている方はいらっしゃいませんが、保険料納付期間とカラ期間を足しても60歳までに25年に足りない方いついては年金制度から脱退できることがあったのですが、この方々についても10年であれば年金として受け取れたので脱退せずに保険料を納付したという方が出てこられる可能性があります。

年金制度はすでに様々な経緯がありますので、一面だけで判断することが難しくなっています。年金受給可能期間だけを取ってもこれだけの問題が付随します。
制度を変えれば、誰かには良くても必ず誰かにとっては良くない結果となります。この「良くない方」だけをクローズアップすれば、どのような変更であれ「改悪」となってしまいます。しかし、全体を見れば多くの方にとっては「改善」の事も少なくありません。年金制度は個人のお金に関する問題でもありますが、公共の問題でもあります。個人的な損得だけを言っていたのでは絶対に永遠に解決はしません。その事をよくお考えいただきたいと思います。


(2012.2.10)




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