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年金の本当のおはなし
「制度運営上の改善事項について」について(3)
「制度運営上の改善事項について」はこちらをご覧ください

(2)保険料関係
・免除期間に係る保険料の取扱いの改善
これにはそれぞれ別の問題に関する3つの案が提示されています。
一つ目は、前納に関する問題です。
収入が少ないために国民年金の保険料を支払う事ができない方については、申請し承認されることによって保険料の全額又は一部を免除することができます。未納のまま放置するのと違って、保険料納付免除が認められている場合は、将来の老齢基礎年金のうち国庫負担部分は受給できます。一方で国民年金の保険料は半年分か1年分を纏めて前払いすることができるようになっています。この場合、一定の保険料の割引があります。
この前納をした後で保険料免除が認められた場合、現在は前納した保険料はそのまま納付することになりますが、これを還付することができるようにしようというものです。
二つ目は上記の保険料免除が遡って認められた場合に、すでに保険料を納付されていた月については、本人の希望により免除ではなく保険料納付済期間として扱うというものです。
この二つについては、制度として不合理な部分は何もありませんが、該当される方はかなり少数ではないかと思われます。
三つ目は、保険料の免除は上記に書いたような申請によって認められる場合と、法的に免除が認められる場合があります(ただし、免除を受けるには手続きが必要です)。法的に免除が認められる場合は、障害基礎年金の受給者となった場合等です。
法定免除の場合、現行制度では保険料を納めることができなくなってしまいます(後から遡って納付することは可能ですが、その場合保険料額が高くなります)。障害年金は障害の状態でなくなれば支給されないものですので、65歳以降は老齢基礎年金を受給する可能性もあります。この場合、法定免除分については老齢基礎年金の額が少ない事となりますので、この不利益を回避するために、希望される方については法定免除となっても保険料を納付できるようにしようというものです。
これについても妥当な改善だと思います。

・国民年金保険料免除に係る遡及期間の見直し
国民年金の保険料免除は、申請をした後の月について保険料の納付が免除されるのですが、現在は12月中に申請をすればその年の7月まで遡って免除が認められています。保険年度は4月から翌年3月なのですが、保険料については前年の所得を基に決定されますので、所得税申告との関連から7月分保険料から免除されることとなっています。
これについて、その年の7月ではなく2年前まで遡って保険料免除を認める事ができるようにしようというものです。この2年というのは保険料納付の時効である2年によるものです。
これは画期的な改善と言えます。現行制度では、実際に経済活動をしてみて結果的に収入を得ることができなかったという時期について免除申請をすることができず、まだどうなるかわからない未来についてのみの申請しかできませんでしたので、収入が少なかったにも関わらず免除が認められず、結果的に保険料未納となっている方が少なからずいらっしゃいます。所得税については、過去1年間の所得について申告し、その結果に基づいて税額が決定されることを考えれば、おかしな制度であったと言えます。この改善を行う事によって、本当に収入が少ないために未納だった方を免除扱いにする事が可能となりますので、相当人数を救う事ができるようになるでしょう。
ただし、保険料の全額が免除された場合は良いのですが、一部のみの免除の場合は納付すべき保険料額を納めないと未納扱いとなりますので、注意が必要です。

・付加保険料の納付期間の延長
国民年金の独自制度として、付加保険料を上乗せをする事によって老齢基礎年金を少し増額させることができるようになっています。実はこの付加保険料は金額は少ないものの非常に率の良いもので、可能であれば付けておかれることをお勧めします。
この付加保険料は、現行制度では納付期限までに付加保険料を納付しなかった場合、加入を辞退したものと判断されその月以降は付加保険料を納める事ができなくなっています。これを本体の国民年金保険料と同じ扱いとして、2年前まで遡って納付することを可能とするということです。
現実問題として、どの程度ニーズがあるのか不明ですが、特に問題もない改善かと思います。

・前納制度の拡充
国民年金の保険料は、月々定額の保険料を納める以外に、6か月分や1年分を事前に纏めて支払う事によって保険料の割引を受けることができるようになっています。
この前納制度を、今の6カ月・1年に加えて、2年分の前納ができるようにするというものです。2年分を前納する場合の割引率は4.0%とし、2年分で14,340円(平成23年度価格)の割引とするとの事です。
どの程度の利用者がいらっしゃるかは不明ですが、選択肢が増える事自体は良い事だと思います。

・DV被害者の免除制度の改善
国民年金保険料の免除は、世帯単位の収入によって判断されています。ですので、以前は学生の方に収入が無くても同居の親に収入があれば免除ができなかったのですが、それでは不都合だということで学生特例という制度ができました。同様に20歳代の方には保険料納付の猶予が認められています。
この改善案は、DV被害によって世帯主には収入があっても本人にはそのお金を使う事ができず、結果的に保険料を納めることができずに未納となっている方について、世帯単位ではなく本人の収入のみを元に免除の審査を行う事とするというものです。このDV被害を受けているかどうかについては、都道府県の婦人相談所の証明書等によって判断するようです。
この改善自体は良いと思いますが、DV被害を受けているにもかかわらず証明が取れない方や、逆にDV被害者ではないのに免除申請をする人が出てくる可能性があると思いますので、そのあたりの対応をキチンと定めておかないと、また問題化する可能性がありそうです。


(3)その他
・悪質な未適用事業所等の公表
社会保険(厚生年金保険及び健康保険)は、法人の会社(株式会社や有限会社等)と、個人経営であっても5人以上の従業員がいる会社は加入し、保険料を支払わなければなりません。しかし、加入義務がありながら加入していない事業所もあります。年金事務所はこのような事業所には加入するよう勧告、加入指導をしています。
このような事業所の名前を公表するというものです。社名の公表がどの程度の効力があるかはわかりませんが、違法行為をしている以上はなんらかの制裁はやむを得ないでしょう。
尚、社会保険に関しては加入義務に関してもこの程度の対応しかしておらず、保険料の滞納についても、いきなり強硬手段を取るような事はしていません。ある新聞で社会保険庁が無理やりお金をはぎ取っていったかのような報道がありましたが、今は存在しない庁の名前であることも含めて、あまり正確な報道ではないように思います。このような報道にはご注意下さい。

・所在不明高齢者に掛かる届出義務化
2010年夏に問題となった所在不明高齢者に関する問題です。現在、死亡ではなく所在が不明となった年金受給者に関しては家族等に届出義務はありませんが、これを義務化しようというものです。
今まで所在が不明となった場合の届出が存在しなかった事自体は制度の穴だと思いますので、この制度を設ける事は良いと思いますが、意図的に年金の詐取を考えている人には有効ではないと思われますので、届出を待つだけではない対応が必要だろうと思います。

・年金給付の内払調整の対象範囲拡大
年金記録問題に関連することなのですが、記録の確認をした結果、年金を多く支払い過ぎていた事が判明することがあります。この場合、すでに支払い過ぎている年金分については、その後の年金から差し引くという処理(内払調整)をされていますが、法律上定められていないため、トラブルとなっているようです。そのトラブル回避のため、法律に明文化するということのようです。
年金額が減ってしまう方については許し難い事だと思いますが、この措置はやむを得ない事と思います。年金は正しく確認・請求し、正しく受け取りましょう。


以上、簡単な説明と感想でした。
また、14日に社会保障審議会年金部会の資料が発表されましたので、引き続き、その内容について解説したいと思います(はー、仕事にならない…(苦笑))。


(2012.2.15)




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